東京地方裁判所 昭和45年(ワ)12513号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕一(事故の発生および責任の帰属)
昭和四五年六月二三日午後四時三〇分頃、東京都足立区栗原町八三六番地先路上において、道路歩行中の原告秀一が被告元木運転の加害車にはねとばされ、傷害を負つたことは当事者間に争いがない。
そこで、事故態様について判断するに<証拠>によれば、本件道路は、本木新道と西新井駅とを東西に結ぶ、歩車道の区別のない幅員3.35米の平担な、乾燥した舗装道路で、東方への一方通行および四〇粁の速度制限規制がなされていること、付近は住宅地で、交通閑散なこと、本件道路の南側は住宅が連なつており、衝突地点の南側には家屋とブロック塀との間に幅員1.7米の路地があること、衝突地点の北側は空地であること、被告元木は加害車を運転し、本件道路を西新井駅に向つて、時速約三〇粁前後の速度で、東進していたところ、本件現場の約三五米手前で、右から左に横断し、空地に渡つた子供二、三人を見たこと、同人は以前から同所に路地があることを知つていたので、もう人は出てこないと軽信し、念のためクラクションを鳴らしただけで、そのままの速度で直進を続けたこと、同人は衝突地点の8.4米手前で、前記路地から空地へ向つて走り出した原告秀一を発見し、急制動の措置をとつたが、間に合わず、3.4米から4.05米のスリップ痕を残して、道路の中央付近において、加害車の左前部を原告秀一に衝突させ、原告秀一はそのため1.7米はねとばされたこと、被告元木が原告秀一の姿をはじめて発見したときは、原告秀一は道路の左端より0.9米中央よりの部分にいたこと(衝突地点は道路北端より1.65米中央よりの部分であり、原告秀一の発見された地点から衝突地点までの距離は0.8米であるから、道路幅員を考えると、右認定のようになる。)、したがつて、被告元木は、原告秀一が路地から出て0.9米進む、わずかの時間前方注視を怠つていたこと、一方原告秀一は、本件道路を横断するに際し、左右の確認を怠り、路地から走つて飛び出したことが認められ、被告元木の先に渡つた子供達を見てから減速した旨の供述は、スリップ痕の長さに照らし事実を正確に反映したものとはいえず(仮りに減速したのが本当だとしたら、被告元木は本件道路を時速三〇粁以上の速度で進行し、本件現場の直前に三〇粁に減速したものといわねばならない。)、このほか右認定を左右し得ることのできる証拠はない。
右認定事実によれば、被告元木は、自動車運転者としては住宅地の幅員の狭い道路を走行する際には、児童あるいは幼児が路上で遊んだり、或いは路地からとび出してくることがあるから、予め減速したうえ、前方を常に注視して運転しなければならず、しかも、既に子供達が路地から出てきたのを認めたのであるから、他にも子供達が出てくることを予想して、減速したうえ、前方、左右を十分注意しながら進行しなければならないいのに、単に警笛を吹鳴しただけで、慢然時速約三〇粁の速度で進行し、しかも前方注意を怠つて進行した過失を犯し、そのため路地から道路を横断しようとしていた被害者原告秀一の発見が遅れ、本件事故を惹起したといわねばならず、被告元木が、本件事故によつて原告らの蒙つた損害のうち、相当因果関係にあるか、とくに被告において予見した範囲の損害を、民法七〇九条により賠償しなければならないことは明らかである。
また運行供用者であることを認めて争わない被告会社も、運転手たる被告元木に右のとおりの過失が認められる以上、免責される余地はなく、右損害につき、自賠法三条によつて賠償責任を負わなければならず、右被告らはその損害賠償責任を不真正に連帯して負担しなければならない。
しかし、被害者の原告秀一も、本件道路を横断するに際し左右からの車両の有無に注意を払うことなく、路地から走り出して横断を開始したもので、同人のそのような過失が本件事故発生に寄与していることが明らかである。そして、被告元木および原告秀一の右認定のような過失を考慮し、本件道路の幅員および環境、加害車の速度、被告元木が警笛を吹鳴していたこと、後記認定のような原告秀一の年令に鑑みると原告秀一の過失の本件事故に対する寄与は四〇%と認めるのが相当である。 (田中康久)